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  お日様布団



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 カフェで昼食を軽く済ませ、夕食の買出しが終わったころ、時間は三時半を差そうとしていた。
 は、買ってきたものを急いで冷蔵庫に仕舞い、洗濯物を取り囲み、それを珪と一緒にたたんだ。

「あ!お布団!」

 は、急に思い出すと、バタバタと二階へ駆け上がって行った。

「……じっとしてないやつ」

 そんなは、珪の目から見れば実に飽きの来ない動きをしていた。

「ごめーん。お布団入れたらすぐに戻るからー」

 と二階からの声。
 なんだかそれが、とても微笑ましく、ハウスキーパーが休んでいることを珪は、初めて感謝した。
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 は干したての布団を抱えて、珪の部屋へ運ぶ。
 
(わー。お日様の匂いと珪くんの匂い……)

 それを、ふわりとベッドにかける。
 はいつもの癖で、そこへ倒れこんだ。

「あ! 珪くんのお布団だっけ……」

 こんなことしてる場合じゃないや……、と思うのもつかの間、疲れもあったのだろうし、干したての布団の魔力のせいなのかもしれない。
 はそのまま寝入ってしまった。
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 洗濯物をたたみ終えても、ちっとも戻ってこないを、珪は少しソファで待っていた。が、30分たっても戻ってこなかった。
 
「……?」

 自室をそっと開ける。
 そこには、自分のベッドの上で寝入ってるの姿があった。
 寝ると、幼いころの面影が色濃く、珪は目を細めた。
 時間が戻ればいいのに。とさえ思ったが、それは叶わないこととわかっていた。

「……お疲れ」


 ベッドに腰掛けて、寝て売る優花を静かに見守る。

 珪はそっと、の髪をなでる。それから頬にくちびるをあてた。

 さらりとしてしまった行動に、珪自身、信じられなかった。


「…………」

 これ以上ここにいるとなにをするかわからない珪がいた。
 
 珪はそっと自室を出、ソファでを待つことにした。

 

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 が目覚めたのはそれからしばらくたってのことだった。

「やだ……わたし……珪くんのベッドで……」

 優花は顔が熱くなるのがわかった。
 そのほてりを少しさめるのを待って、下へ降りる。
 そこには、洗濯物を片付けて、ソファで寝ている珪がいた。
 は大きめのバスタオルを持ってきて、珪にかけてやる。
 整った端正な寝顔。
 急に、珪のベッドで爆睡していた自分を思い出し、恥ずかしくなった。

(……もしかして見られちゃったかな?)
 
 もしかしてもない。珪の服は珪の部屋にしまうのだから、見られたのも当然だろうと、は思うと、顔から湯気が出る思いだった。

(わーん! もう! 私のドジ!!)

 ふと時計を見ると夕方、5時過ぎだった。
 は、あわてる事もないのに夕飯の支度へと急いだ。
 かなり恥ずかしかったのだろう。
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 結局今日の夕食は、かぼちゃのポタージュスープと、デミグラスソースのハンバーグ、付け合せはブロッコリーのソテー。それに生ハムのサラダに胚芽パン。
 珪が食べたいものを言わなかったので、の得意な料理(と言ったも簡単なものだが)になっていた。
 調理器具の、フードプロセッサーを優花は自分のかばんから出す。
 まずはスープから作る。レンジでやわらかくしたかぼちゃの実と皮を分け、実だけを鍋に入れて、フードプロセッサーでとろりとするまでかくはんする。
 手際よく、ハンバーグのたまねぎをよく炒めていたころ、チャイムが鳴った。
 そのチャイムでも、珪が起きる様子はなかったので、は代わりに自分が出ることにした。

「はぁい」

 ドアを開けると、白髪交じりの上品な女性が、を見て少し驚いているようだった。

「……えっと……。あの、留守番のものですが」

 優花が言うと女性は

「はばたき家政婦案内所の栗田と申します。」

 やはり上品に会釈を女性はした。
 は、その言葉に驚いた。ハウスキーパーと珪が言っていたから、若い女性だと思い込んでいたからだった。

「あなた様は、珪さまの……?」

 ニコニコしながら言う栗田に、優花はあわてた。

「い、いえ! あの、その、わたしは……」

 まさか、珪が好きであるとか言えず、かといって、自分から友達と言ってしまえば惨めだし、どういっていいかわからなかった。

「あら?いい匂いがしますのね。珪さま?」

「栗田さん、風邪は?」

 いつの間にか、の後ろには珪がいた。
 
「ええ。もうすっかりでございます。今日の夕飯から・と思いましたが、そちらの珪さまの好い方が、ご用意されておられるようなので、私は退散しますわね」

 ニコニコ笑いながら、 「では明日からよろしくお願いします」 そう言って栗田は帰って行った。

「……悪い。なんか、栗田さん、誤解したみたいだ」

 『誤解』 の言葉にひっかっかりを覚えながらも、は笑って、「さて、夕飯の続き、やろうかな?」 と、伸びをしながら言った。

「……なんか手伝うか?」

「うん。じゃぁ、野菜洗ってくれるかな? あと、お皿を何使っていいかわかんないから、出してくれる? 」



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