親友珪くん



恋の厄介モノ
 act.1 : ハンプティ・ダンプティ



 夜空には、猫が引っ掻いた様な細い月が静かにそこにいた。
 街のネオンで弱々しく銀の光を放つ月。
 
 −−どうして、俺は……。

 きらめくネオンは。いつかかあいつと一緒に見た、ナイトパレードのようだった。

 −−……ピエロみたいだな。

 ため息が、自嘲みたいに漏れた。 
 あいつは 『ヤツ』 を想っていた。俺は、淡い期待のようなものを抱いていたのかもしれない。
 一緒にいられれば、それで良かった。
 淡い期待は、時として残酷で、心が痛かった。それをひた隠す。あいつに気付かれないように……。
 あいつを応援すると、あいつの前で誓った。だからそれでいい。
 あいつにはいつも笑顔でいて欲しい。あいつの幸せは俺のそれだと言い聞かせた。……溢れてしまう想いは塞き止められず、どこか、言葉や態度に漏れてしまう。

−−本音とタテマエ……。うまく使えてつと思ったのにな。

 言葉の万力はキリキリと音を立てて、俺の胸を締め付ける。
 なすすべもなく。

 −−すべてが苦しい……。

 ぐっと拳に力が入った。

 素直になれないことはいつものこと。
 素直になりたいとか、そういった思いはすでに凍ってるじゃないか。
 けれど……。
 あいつの言葉と表情は、それを徐々に溶かしてしまった。

 −−今更……、もう……。

 後悔の入り混じる、あいつに対しての想い。


 それはもう戻らない。




 割れた卵が、元に戻らないように。




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