緊張するな。 の家、もう何回目かなのに。……誕生日プレゼント、初めて渡したとき以来か……?緊張するのって。 チャイムのボタンを、そっと押す。軽やかに聞こえるチャイムの後に、の元気の良い声。 「いらっしゃ〜い」 「……ああ」 「ごめんね、いま、ご飯作ってるから、リビングで良いかな?」 「あ、どうぞ、おかまいなく……」 は、やたらと笑った。可笑しかったか? 俺? 「なんだよ。……そんなに笑うな」 「あはは……。ごっめ〜ん」 ……わざとだ。こいつ。 顔、背けてやる。 「怒った? でも、珪くん、なんだか……」 まわり込んで、俺を覗く。 ……だめだ、その表情。……見せんな。 「かわいいねぇ……」 「……”かわいい”とか、言うなよな」 の方が……。 「そおいうところ、いいなって思う」 ……………………。 「……あ、いや。俺も……」 「あー!!」 言葉をさえぎって、は慌ててリビングと、続きになってるダイニングキッチンへと駆け込んで行った。 ……こういうヤツだ、こいつは。 「えへへ。オーブン、つけっぱなしだったの忘れてた」 心配そうな顔で、オーブンを覗く。 きっと、一生懸命下ごしらえしたんだろうな……。 「良かったな、焦げなくて」 ……そう。よかったな……って? 「氷室先生!?」 なんでこいつが!! ** の料理は美味かった。手作りのポタージュスープ、盛りサラダの色合いは鮮やかだった。 ローストビーフのソースは和風。ソースをパンで拭っても、パンに合ったのが意外に思えた。 「珪くん、モデル、やってるでしょ? だから、栄養面でも気を付けたんだよ? けっこう、偏った食事してるみたいだし」 こういった心遣い……、いいな。 「……どう? 味の方は?」 「私は普段、こんな複雑な物を口にしないが、この味の良さは解かる。評価を付けるとするなら、Aマイナーといったところだな」 俺じゃなかったか? 今、聞かれたの……。 「……Aマイナーですか?」 その評価にか、氷室先生が答えたことにか、は、首を傾げた。 「そうだ。……なぜか解かるか?」 「……何グラムか判らないから、ですか?」 「……うむ。それもあるが……」 氷室先生は、俺をチラリと見た。 「……まあまあの答え、と言うところだな」 「……はあ」 こいつが、鈍感で良かったのかも。こういう時って。 「珪くんは……、どう?」 「……ん。なかなか美味い、これ」 「ソース?」 「ん?……ああ」 「よかった〜。ソースが一番むずかしかったから……。どうしても和風にしたくって」 「……なぜ?」 「だって、珪くんも先生も、普段、和風なんてあんまり食べなさそうだから。パンに合う味、なかなか決まらなかったし」 は、嬉しそうに 「よかったぁ! 珪くんが美味しいっていってくれて!」 ………………。 そういう笑顔、かわいい、と思う。 の、嬉しそうな顔見ると、こっちまで嬉しくなってくる。 来て良かった……。 あいつさえいなきゃ……。 *** 「これより、氷室式夜の過ごし方を行う」 ……………………。 「意欲の無いものは去れ!」 ……こっち見んな。露骨なヤツ……。 「あの〜。ここ私の家なんですけど……」 「では、意欲を出すしかないだろう」 思いっきり、苦笑いしてるぞ、。 結局、夜11時ごろまで、勉強させられた。 「葉月、君は普段から私の授業で寝ている。意欲が欠けている証拠だな」 「……テストの点数、良いですから。睡眠学習してるんです。俺の場合……」 「……君は、私の理解の範囲を超えている」 が、「仲が良いんですね、お二人とも」 なんて、オチをつけた。 いい冗談だな、それ……。 「では、就寝時間だ。葉月、お暇するとしよう」 「あ……。あの、先生。泊まってくれるように頼んだんです、珪くん……」 そうだったか? 「では就寝準備をしなさい。私も泊まるから」 ……は? 「こういう場合は、助け合いだ。……そう思うだろう? 葉月」 ……解せない……。 「……なんで、先生が?」 自身たっぷり気に、 「愚問だな。遠くの親戚より近くの隣人と言うではないか」 …………………。 それ、答えじゃない……。 「じゃぁ、私、お布団用意してきますね」 そう言っては部屋を出ていった。 「ん、コホン。……葉月、質問だ。君たちはこういった仲なのか?」 「……ん?」 「……つまり、だ。……その……」 …………なに照れてるんだ? ……泊まるような仲とか聞きたいのか? 誤解……してる。……面倒だな。 「と、同じ屋根の下で寝るのは2回目です」 修学旅行以来だ。……少し状況は違うけど。 ……修学旅行と言えば、あの時土産で買った 『ネコの手』 、買って良かった。 付け根の所、押すと手が曲がるんだよな……。 「すごくかわいいな。……柔らかくて、……しなやかで、……仔猫みたいな声で鳴いたっけ……」 もう一個買っておけばよかった。……一個じゃ物足りない。 「葉月! なんて破廉恥千万!! その手付きはなんだ!!」 ナニ先生怒ってるんだ? ……手付き? 『ネコの手』 をにぎにぎ……。 |