青春りっしんべん (其の壱)
分岐/……どういう意味だ?
                                         書いた人/松子
 
 緊張するな。
 の家、もう何回目かなのに。……誕生日プレゼント、初めて渡したとき以来か……?緊張するのって。
 チャイムのボタンを、そっと押す。軽やかに聞こえるチャイムの後に、の元気の良い声。

「いらっしゃ〜い」

「……ああ」

「ごめんね、いま、ご飯作ってるから、リビングで良いかな?」

「あ、どうぞ、おかまいなく……」

 は、やたらと笑った。可笑しかったか? 俺?
 
「なんだよ。……そんなに笑うな」

「あはは……。ごっめ〜ん」

 ……わざとだ。こいつ。
 顔、背けてやる。

「怒った? でも、珪くん、なんだか……」

 まわり込んで、俺を覗く。
 ……だめだ、その表情。……見せんな。

「かわいいねぇ……」

「……”かわいい”とか、言うなよな」

 の方が……。

「そおいうところ、いいなって思う」
 
 ……………………。
 
「……あ、いや。俺も……」

「あー!!」

 言葉をさえぎって、は慌ててリビングと、続きになってるダイニングキッチンへと駆け込んで行った。
 ……こういうヤツだ、こいつは。
 
「えへへ。オーブン、つけっぱなしだったの忘れてた」

 心配そうな顔で、オーブンを覗く。
 きっと、一生懸命下ごしらえしたんだろうな……。

「良かったな、焦げなくて」

 ……そう。よかったな……って?

「氷室先生!?」

 なんでこいつが!!

   **

 の料理は美味かった。手作りのポタージュスープ、盛りサラダの色合いは鮮やかだった。 ローストビーフのソースは和風。ソースをパンで拭っても、パンに合ったのが意外に思えた。
 
 「珪くん、モデル、やってるでしょ? だから、栄養面でも気を付けたんだよ? けっこう、偏った食事してるみたいだし」

 こういった心遣い……、いいな。

「……どう? 味の方は?」

「私は普段、こんな複雑な物を口にしないが、この味の良さは解かる。評価を付けるとするなら、Aマイナーといったところだな」

 俺じゃなかったか? 今、聞かれたの……。

「……Aマイナーですか?」

 その評価にか、氷室先生が答えたことにか、は、首を傾げた。

「そうだ。……なぜか解かるか?」

「……何グラムか判らないから、ですか?」

「……うむ。それもあるが……」

 氷室先生は、俺をチラリと見た。

「……まあまあの答え、と言うところだな」

「……はあ」

 こいつが、鈍感で良かったのかも。こういう時って。

「珪くんは……、どう?」

「……ん。なかなか美味い、これ」

「ソース?」

「ん?……ああ」

「よかった〜。ソースが一番むずかしかったから……。どうしても和風にしたくって」

「……なぜ?」

「だって、珪くんも先生も、普段、和風なんてあんまり食べなさそうだから。パンに合う味、なかなか決まらなかったし」

 は、嬉しそうに

「よかったぁ! 珪くんが美味しいっていってくれて!」

 ………………。
 そういう笑顔、かわいい、と思う。
 の、嬉しそうな顔見ると、こっちまで嬉しくなってくる。
 来て良かった……。
 あいつさえいなきゃ……。

   ***

「これより、氷室式夜の過ごし方を行う」

 ……………………。

「意欲の無いものは去れ!」

 ……こっち見んな。露骨なヤツ……。

「あの〜。ここ私の家なんですけど……」

「では、意欲を出すしかないだろう」

 思いっきり、苦笑いしてるぞ、



 結局、夜11時ごろまで、勉強させられた。 「葉月、君は普段から私の授業で寝ている。意欲が欠けている証拠だな」 「……テストの点数、良いですから。睡眠学習してるんです。俺の場合……」 「……君は、私の理解の範囲を超えている」 が、「仲が良いんですね、お二人とも」 なんて、オチをつけた。 いい冗談だな、それ……。

「では、就寝時間だ。葉月、お暇するとしよう」

「あ……。あの、先生。泊まってくれるように頼んだんです、珪くん……」

 そうだったか?

「では就寝準備をしなさい。私も泊まるから」

 ……は?

「こういう場合は、助け合いだ。……そう思うだろう? 葉月」

 ……解せない……。

「……なんで、先生が?」

 自身たっぷり気に、

「愚問だな。遠くの親戚より近くの隣人と言うではないか」

 …………………。
 それ、答えじゃない……。



「じゃぁ、私、お布団用意してきますね」

 そう言っては部屋を出ていった。

「ん、コホン。……葉月、質問だ。君たちはこういった仲なのか?」

「……ん?」

「……つまり、だ。……その……」

 …………なに照れてるんだ? ……泊まるような仲とか聞きたいのか? 
 誤解……してる。……面倒だな。

と、同じ屋根の下で寝るのは2回目です」

 修学旅行以来だ。……少し状況は違うけど。
 ……修学旅行と言えば、あの時土産で買った 『ネコの手』 、買って良かった。
 付け根の所、押すと手が曲がるんだよな……。

「すごくかわいいな。……柔らかくて、……しなやかで、……仔猫みたいな声で鳴いたっけ……」

 もう一個買っておけばよかった。……一個じゃ物足りない。

「葉月! なんて破廉恥千万!! その手付きはなんだ!!」

 ナニ先生怒ってるんだ? ……手付き? 『ネコの手』 をにぎにぎ……。
*モドル*

□ アトガキ □

このゲームのキャラって、なんであんなに嫉妬深いんだ??

ところで、珪くんは、小説の主人公(一人称)には、
ちょっと向いてないみたいね。
何も考えてなさそうだから(笑)、セリフばっかになっちゃったわよ〜。